ツカハラミュージアムに展示されている1927年製ロールス・ロイスはどのモデルなのかを考察する
ツカハラミュージアムに展示されている1927年製ロールス・ロイスは何か?
青森県八戸市にあるツカハラミュージアムには、1927年製と説明されるロールス・ロイスが展示されている。
ロールス・ロイスといえば、大型で威圧感のある高級車というイメージを持つ人が多いだろう。しかし、この展示車両を目にすると、その先入観はやや修正を迫られる。
本記事では、展示されている車両の外観写真および解説プレートの情報をもとに、このロールス・ロイスがどのモデルに該当するのか、またどのような時代背景の中で生まれた車なのかを整理・考察していく。
1. 展示車両の第一印象と基本情報
まず、展示車両の正面写真を見ると、ロールス・ロイス伝統の縦型ラジエーターグリルが中央に配置され、その上部には確かに「RR」のエンブレムが確認できる。これは間違いなくロールス・ロイス製の車両であることを示している。
一方で、全体の印象は意外なほどコンパクトだ。
巨大なボディや長大なホイールベースを想像していると、肩透かしを食らうかもしれない。フェンダーは前後とも独立式で、前輪の左右に丸型ヘッドライトが配置され、さらに中央下部にも補助灯が見られる。これらは1920年代の高級車に典型的な意匠である。
ボディカラーは深いワインレッドで、クロームメッキのグリルやランプ類と対照的な落ち着いた印象を与えている。全体として、華美さよりも品格を重視したデザインであり、当時の英国車らしい節度が感じられる。
2. 展示解説プレートの内容整理
次に、展示車両の前に設置されている解説プレートを確認する。プレートには以下のような情報が記載されている。
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メーカー:Rolls-Royce(ロールス・ロイス)
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製造国:イギリス
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年式:1927年
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エンジン:直列6気筒
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排気量:3.6リッター
また、説明文には、第一次世界大戦後の国際情勢や1920〜30年代の激動の時代背景に触れつつ、この車がロンドンの石畳を優雅に走り続けたことが述べられている。
ここで重要なのは、「1927年製」「直列6気筒」「排気量3.6リッター」という3点である。この情報を手がかりに、当時のロールス・ロイスのモデルラインナップと照らし合わせていく必要がある。
3. 1920年代のロールス・ロイスのモデル構成
1920年代のロールス・ロイスは、すでに「世界最高の自動車」を標榜するメーカーとして確固たる地位を築いていた。同社は信頼性、静粛性、耐久性を最優先し、派手な技術競争には距離を置きながら、完成度の高い車作りを続けていた。
この時代の代表的なモデルとして、まず挙げられるのが「40/50HP」、通称シルバーゴーストである。1906年に登場し、1920年代初頭まで生産が続いたこのモデルは、大排気量で堂々とした車格を持つロールス・ロイスの象徴的存在だった。
一方で、1920年代に入ると、ロールス・ロイスはより小型で扱いやすいモデルの開発にも着手する。こうして1922年に登場したのが「20HP」である。
20HPは、従来の大型ロールス・ロイスよりもコンパクトなシャシーを持ち、比較的自ら運転するユーザーも想定したモデルだった。このため後年、「ベビー・ロールス」と呼ばれることもある。
4. 展示車両と20HPの共通点
展示車両のサイズ感や外観を考慮すると、40/50HP系の大型モデルである可能性は低い。全体にコンパクトで、威圧感よりもバランスの良さが際立っている点は、20HPの特徴とよく一致する。
20HPは直列6気筒エンジンを搭載し、静粛性と滑らかさを重視した設計がなされていた。ロールス・ロイスらしく、スペック上の数値よりも実用上の完成度が優先されていた点も、この展示車両の印象と重なる。
また、20HPはシャシーのみをロールス・ロイスが製造し、車体(ボディ)は各地のコーチビルダーが架装するのが一般的だった。そのため、同じ20HPであっても外観は多種多様であり、博物館展示車両の個体差が大きいことも理解しやすい。
5. 排気量3.6リッターという表記の検討
一方で、展示プレートに記載されている「排気量3.6リッター」という数値には注意が必要である。
20HPのエンジン排気量は、文献によって若干の差はあるものの、おおよそ3.1リッター前後とされている。一方、20HPの後継として1929年に登場した「20/25HP」は、排気量を拡大し、約3.7リッターの直列6気筒エンジンを搭載していた。
3.6リッターという数値は、20HPよりも20/25HPに近い。しかし、展示プレートでは年式が1927年とされており、これは20/25HPの登場以前である。
この点については、いくつかの可能性が考えられる。
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排気量表記が概算であり、厳密な区別をしていない
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展示車両が20HP後期型で、仕様が20/25HPに近い可能性
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展示解説が後年の資料をもとに作成され、年式と排気量の整理が簡略化されている
博物館展示においては、必ずしも学術的に厳密な表記がなされるとは限らず、一般向けに分かりやすさを優先することも多い。そのため、この点だけで展示内容の正確性を否定することはできない。
6. 年式1927年という位置づけ
1927年という年は、20HPの生産期間(1922〜1929年)のほぼ中盤にあたる。この時期、ロールス・ロイスは20HPの改良を重ねながら生産を続けており、初期型と後期型では細部の仕様に違いが存在する。
展示車両がもし20HPであるとすれば、比較的成熟した時期の個体であり、完成度の高い仕様を備えていた可能性が高い。外観に落ち着きがあり、過剰な装飾が見られない点も、この時代のロールス・ロイスらしい特徴と言える。
7. コーチビルダーと個体差の可能性
ロールス・ロイスの車両を特定する上で重要なのが、コーチビルダー(車体製作者)の存在である。20HPを含む当時のロールス・ロイスは、シャシー単体で販売され、購入者が好みのコーチビルダーにボディ製作を依頼するのが一般的だった。
そのため、同じ年式・同じモデルであっても、ボディ形状や細部のデザインは大きく異なる。展示車両のフェンダー形状やランプ配置が文献写真と完全に一致しなくても、それ自体は不自然ではない。
もしシャシーナンバーやコーチビルダー名が確認できれば、より正確な特定が可能になるが、現時点では展示写真とプレート情報からの推定に留まる。
8. 現時点での整理と結論
以上の点を総合すると、ツカハラミュージアムに展示されているロールス・ロイスは、
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1920年代後半に製造された英国車
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直列6気筒エンジンを搭載
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大型の40/50HP系ではなく、比較的小型のモデル
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年式・外観から見て20HP系である可能性が高い
と整理するのが最も妥当だと考えられる。
排気量表記については若干の検討余地があるものの、展示車両の性格や時代背景を考慮すると、「20HP(通称ベビー・ロールス)」という位置づけは大きく外れてはいないだろう。
9. おわりに
博物館に展示されているクラシックカーは、単なる「古い車」ではなく、その時代の技術水準や価値観を伝える資料でもある。今回のロールス・ロイスもまた、1920年代という激動の時代において、ロールス・ロイスが何を重視していたのかを静かに語っている。
確定的な結論に至らない部分があることも含めて、この車の魅力であり、展示車両を読み解く面白さでもある。今後、追加資料や現地での新たな情報が得られれば、さらに踏み込んだ考察が可能になるだろう。

