紅の豚の評価・考察・紹介


紅の豚前回、宮崎駿さんのカリオストロの城について書きました。今回は、同じ宮崎駿さんの紅の豚について書いてみようと思います。

時は20世紀初頭、第一次大戦終結後のイタリアが舞台です。多くの島々と、海に面した国土が特徴の半島国家であるイタリアにスポットを当て、特に飛行艇という物に焦点を当てています。

美しいアドリア海で賞金稼ぎを営む飛行艇乗りのお話でです。アドリア海には、飛行艇で海賊行為を行う空族が跋扈しており、それらを駆逐するのが彼の仕事です。飛行艇を華麗に乗りこなし、鮮やかに空族を撃退するエースパイロット、しかしその正体は豚。

豚という動物は、汚さとか醜さの代名詞として使われます。しかし、その容姿とは裏腹に、かっこいい人物として描かれます。冷静、腕もたつ、そしてダンディズム。見かけが豚でも、とてつもないカッコよさを持つ主人公です。

豚という容姿は、宮崎さん自身の姿と言われています。宮崎さんの作品の中でも、豚という動物はたくさん登場しています。擬人化で描くことが多い宮崎さんですが、長編映画にそれを使うのは珍しいですね。

本作のテーマとは、大人のカッコよさとは?男の誇りとは?あまり社会性の深いテーマを見つけ出すことはできませんが、人間の生きざまを描いたドラマのようです。女のために命を懸けるイタリア人のカッコよさも描いています。

かつてアッテンボロー提督も言っていました。「・・・(省略)・・・勘違いするなよ。俺たちは伊達と酔狂で戦争をしているだからな。」まさに伊達と酔狂に準じて闘う男たちです。かくも陽気に生きてみたいと思います。

時代は政界大恐慌、ファシスト政権の台頭、軍靴の響き。時代が大きく変わろうとしていた時代、困難な時代にも関わらず、そこに生きていた人々は底抜けに明るいものでした。そんな背景を理解して観賞すると、楽しい作品を作り上げたものだとおもいます。

イタリア人とは陽気で、女好きで、お祭りが大好き。そんな国民性をよく理解したうえで成り立つ作品だと思います。ワインを飲み、パスタを食べるシーンなどイタリアをよく描いています。

戦争ネタに使われるイタリアですが、実は非常に優秀な工業・産業がある国なのです。エンジンには名機フォルゴーレがあり、名車フェラーリ、フィアットあり。伝統のピエトロベレッタあり。国民性のせいで、色々言われるイタリアですが、非常に優秀な技術を持つ先進国なのです。ヘタリアなんて呼んではいけません。

名言もたくさん生まれました。「飛べない豚はただの豚だ」が有名ですね。しかし、個人的には主人公の戦友フェラーリン少佐の言葉、「冒険飛行家の時代は終わっちまったんだ。民族とか国家とか、くだらないものを背負って飛ぶしかないんだよ。」というのが好きです。

どこか一匹狼のように戦った当時の飛行機乗りも、騎士のように誇りを持っていた男たちも、時代の流れの中で消えゆくしかなかったのでしょう。今では国家をくだらないと言い放つ軍人というのも珍しいですね。しかし、潮流であった全体主義に流されずに、自由に一人で生きて行けるという強さとカッコよさが垣間見えます。

人間のカッコよさと、個人の持つ強さを登場人物たちはそれぞれ持っているのです。